月夜見 “ある意味、グローバル?”

〜大川の向こう より


暖冬かなぁという前評判を、
例年にないハイペースに当たろう、年明け前から裏切って。
北極育ちの本格的な底冷えは、正月以降、世界規模でその猛威を振るい、
二月に入ってもなお都心でも雪が降る日が続く、極寒の冬が久々に訪れた。
大人たちには ただただうんざりするばかりな寒さや雪だったが、
今時でも子供たちはなかなかにお元気で。
暖房だの使い捨てカイロだのどころじゃあない、
フリースだのヒートテックだのと、
薄くて軽量、なのに温ったか、そんな素材にも恵まれたお陰様。
雪降るお外も平気平気と、
慣れない手つきで、
ちょいと嵩の足らないいびつな雪だるまを作ったり。
ぶつける玉になるほどもない雪を、
手で掬って掛ける格好の“雪合戦”に興じたり。
温かいことで知られる静岡でも降ったとか聞きましたが、
いかがでしょうか、そこのところ。
(こらこら)


  そして、そうこうするうちに


始まったのが“冬季五輪”と来たもんで。
今年はカナダのバンクーバーでの開催となり、
滑降やジャンプ、クロスカントリーなどなどに収まらぬ、
エアという、華麗な空中技を駆使する
フィギュア部門まであるスキーに、
こちらもスピードを競うものと優美な舞いを披露する種目もあれば、
チームによる格闘技、ホッケーから、
氷上のチェス、カーリングまであるスケート競技。
それからそれから、
ボブスレーにリュージュにスケルトンと、
スリリングなラインナップのソリ競技に、
やはり競走種目のトライアスロンと、
ハーフパイプという舞台では空中での自在な演技を競う、
なかなかに今時なスノーボート部門も、
その大胆な空中への飛翔が、子供らにはなかなかの人気。

 『やーはーっ!』

割れたか欠けたかして捨てられていた、
風呂の蓋らしき板戸を見つけて。
取っ手がついてる表を下に伏せ、
わざとにバランスの悪い足場にして乗っかり。
ぎったんばったんと前へ後ろへ傾けちゃあ、
荒馬乗りこなすロデオならぬ、
陸(おか)の上でのサーフィンよろしく、
ボーダーたちの華麗な演技を、
無邪気にも真似していたものだったのが、

 「…ぁよう。」
 「? ああ、おはよう。」

高校だの中学だのという、ずんと年嵩なお兄さんやお姉さんがたは、
進学や入試の関係でとっくに休みだったりする更衣二月。
小学生のおチビらは、まだまだガッコがある身の上で。
それでも土曜は休みだからと、
寒い朝でもパキーッと起き出し、
白い吐息を口許へとまとわせつつ、
お外へ飛び出して来るところまでは、
日頃と同んなじ…ではあったものの。

 「…………………zz。」
 「お〜い、ルフィ〜〜〜?」

いつもの休日同様に、
大好きなお友達のお家までをのして来た腕白さんだったが。
目許の、いやさ…お顔の焦点が、
何となくぼんやりとしているような。
どちらかといえば朝型で、
怠け者の節句ばたらきなんかじゃなく、
休みであろうとなかろうと、
お天道様と同じに、そりゃあ溌剌としているはずのルフィ坊やが、
真ん丸なドングリまなこを とろろんと曖昧にぼやかしており。

 「さては、オリンピックの中継、観てたな?」
 「ううぅ……。」

どうやら寝不足な彼であるらしく、
いつもならじっとしているのさえ珍しい腕白だってのに、
今は…立ってるだけの彼なその上、
その小さな肢体が、
風もないのにゆらんゆらんと覚束なく揺れており。
半分寝ている状況なのが、ありあり判る。

 “こういうチビさんて、投稿ビデオとかで観たことあんな。”

眠くて眠くてたまらないのだけれど、お腹も空いてるんで、
とりあえず席に着いたテーブルで、
今にも食器へお顔を突っ込みそうになって、
うつらうつらと舟を漕ぐ赤ちゃんとか……でしょうか?
今日はお陽も出ている、久々のいいお天気ではあるが、
時折 吹きつける風の冷たさと強さは結構なそれだったため。
坊やの母親代わりなマキノが用心して着せたのだろ、
ふわふかなダウンのジャケットと、襟を埋めてるマフラーと。
ボトムも温かそうなコーデュロイの長いズボンと来て、
温かさが尚の眠気を育んでもいる模様であり。

 「だってよぉ。」

ホカホカぬくぬくのお布団の中にでもいるような、
そんな錯覚に襲われているに違いない、
ぽさぽさの黒髪を風に躍らせてる皇子様。
瞼が上がり切らなくての半眼になってる目許のまんま、
うにむにと言い返して来たお返事はといや、

 ―― なんであんな遅い時間になんないと、
    テレビでやってないんだよぉ

シャンクスがおーえんしてる、
プロやきうのパ・リーグの○○○の試合じゃあんめーしよ、などと。
父上が聞いたら、いやいや○○○とやらいう球団のファンが聞いたなら、
泣いちゃうかも知れないよなお言いようをしてくれた
ルフィもルフィなら、

 「…いや、別にファンが少なくての、
  視聴率を取れ無さそうだからって理由から、
  夜中や朝早くに放送してるワケじゃないんだがな。」

ファンが少ないなんてのは余計なお世話だ、
ゴールデンタイムに生中継されませんよどーせと。
シャンクス父ちゃんがますます拗ねたに違いないお答え、
遠慮も斟酌もなくしれっと返した、
ゾロもゾロかも知れぬ。

 ―― だよなー。
    皆が一杯応援してるのに、
    しちょーりつが取れなかろってのはおかしい話だよなー。

大人の考えることはよー判らんと、
一丁前に胸の前で腕組んで、むむうと考え込んでしまった、
坊ちゃまだったの前にして、

 “きっと判ってないんだろーな。”

こういった国際的なイベントや大会を、
中継などなどでリアルタイムに観戦しようと思ったら、
どのご近所開催でない限り、
どうしても免れられないのが“時差”という壁で。
抜けるような青空という“昼間”の映像を、
こっちは夜中や未明に観る不思議、
恐らくは判ってないままな坊やが、
ううう、眠たいよぉと瞼を重そうにしている姿の、
何とも可愛らしいことよ。
まだまだ日程はやっとの折り返しです。
スキーのジャンプとか女子のフィギュアとか、
バイアスロンもあればホッケーだってまだ始まってないんじゃあ?
それに、パラリンピックだってありますしね。
スポーツへの造詣深く、運動センスがいいからこそ、
坊やもついつい観ちゃうスーパープレイの数々で。

  せめて、春休みにやってくれたらよかったのにな。

  おお、シャンクスもずっとずっと遅寝してて、
  今日はとうとうマキノに怒らりてたぞ。

無邪気な親子の五輪観戦は、まだ当分は続くようでございます。
とりあえず

     
頑張れ、日本!!



  〜Fine〜  10.02.20.


  *眠くて眠くてしょうがないのは、この私です。
   いやはや、ついつい観てちゃうんですな。
   いなバウアーの荒川選手しかメダルを取れなかった前回に比べれば、
   判りやすい結果を出してもいるし、それ以上に話題の多い今大会。
   いやホント、まだまだ話題は尽きなさそうですvv

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